中川絹糸株式会社

2023/12/5 毎日新聞(滋賀版)

シルク素材を家庭で洗うことができたら・・・。そんな長年の課題に応え、独自のアイデアで洗えるシルク「プライムシルク」を開発したのが、国内唯一の絹紡糸メーカー、中川絹糸株式会社です。

「絹紡糸」は、生糸にできず廃棄されていた副蚕糸などを撚り合わせた絹糸ですが、ふんわりと柔らかな肌触りと吸放湿性・保温性に優れています。これを保持したまま、水や摩擦に弱く扱いにくい欠点を克服すべく、洗濯などで剥がれやすい繊維分子の結合を強める架橋結合の研究を重ね、完成したのがプライムシルクです。たんぱく質素材の絹とアミノ酸組成の人肌との親和性を生かし、コロナ禍の2020年に発売したマスクが爆発的に売れ、インナーウエア、枕カバー、ナイトキャップなどを次々と商品化。在宅ワークの増加に伴いリラックスできる日常使いが好評で、予想以上のオーダーを受けているそうです。

中川絹糸は、1940年、姉川の良質な伏流水に恵まれ養蚕やビロード、浜ちりめんなどの生産で栄えた長浜市に創業。和装文化と共に発展し、77年には特殊な絹紡糸の製造技術を特許化しました。しかしその後、着物需要の減少、化学繊維の台頭、中国などとの価格競争で市場が悪化し、業界は衰退。そんな状況下で生き残ることができた要因は、迅速かつ積極的な洋装への転換、全国の繊維・アパレル企業を1件ずつ訪ね歩くほどの粘り強い販路開拓、精練から紡績、仕上げまでの全工程を一貫できる技術と設備力、そして何より「オンリーワンの糸づくり」へのあくなき探究心とチャレンジ精神でしょう。

2000年に就任した4代目の中川嘉隆社長は、糸の精練を化学薬品でなく酵素を用いた「酵素精練」に改めました。難しい温度管理、時間、コストを掛けた丁寧な方法で、原料を傷めず、染めて生地にすると絹本来の色と艶が際立ち、違いが表れます。環境も汚しません。また、紡績機械を自ら改造し、新たな糸を生み出すバイタリティは中川社長ならでは。ユニークなのは、不安定な供給で価格変動が激しい原料を、安価で品質のよい時期に約10年分も仕入れておくという、時流にそぐわぬ調達方法。しかし安定したものづくりが信頼につながり、リーマン・ショックも乗り越えました。

こだわりのある高品質の糸づくりは国境を越えて話題となり、15年には「日本の絹」をテーマにしたパリコレクションで、三宅一生氏が同社の糸を採用。さらにこれをきっかけに、海外の高級ブランドのシャネルやエルメスからも指名買いされたのです。

従業員の平均年齢は30.4歳で、全員が正社員。「『人』は伝統の技を継ぐ大切な資産。先代から積み上げられた信用の土壌」と語ります。若く柔軟なアイデアは、新商品の開発にも生かされています。

今、話題の素材ベンチャー2社との共同開発が進んでいます。世界初の人工合成による構造タンパク質素材「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」の量産化に成功したSpiber(スパイバー)株式会社(山形県鶴岡市)と、生分解性のポリ乳酸機能を高めた繊維「PlaX(プラックス)」を開発したBioworks(バイオワークス)株式会社(京都市)です。Spiberとはすでにザ・ノース・フェイスのブランドでダウンジャケットを商品化、Bioworksとはバイオ技術による新しい繊維、次世代原料を開発中。近年、シルクは繊維のみならず、主成分であるタンパク質が医療品や化粧品、食品分野にも広がりをみせ、注目される素材です。当産業支援プラザの「中小企業等外国出願支援補助金」を活用し、さらなる海外展開を狙います。

繭を余すことなく絹紡糸という逸品に再生し、素材にも地球環境にも優しい精練技術で、有機溶剤の不要なプライムシルクを主力に、さらにサスティナブルな新素材を創造する中川絹糸。創業83年の老舗企業と思えぬベンチャーマインドで業界を変革し、ますます脚光を浴びそうです。

企業概要

中川絹糸株式会社

(長浜市川道町2481)

https://www.nakagawasilk.jp/

絹紡績糸製造・販売、ウール・麻・綿等の混紡績糸製造・販売。

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(公財)滋賀県産業支援プラザ 
情報企画課

TEL
077-511-1411

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