しんにょ陶器株式会社

2023/6/27 毎日新聞(滋賀版)

工房を訪れると、まろやかに心身を包む生演奏さながらの音色が広がっていました。なんと球状の信楽焼の中に隠れたスピーカーからの音でした。信楽の土に魅せられて研究を重ね、土質を知り尽くした、しんにょ陶器株式会社の田村靜夫社長の経験と感性から生まれたアイデア商品です。

信楽の土壌は、母岩となる花崗岩に長石や石英の粒が混じり、焼くと硬く締まりつつも多孔質になります。そのため信楽焼は甕(かめ)、壺、鉢などに適し、鎌倉時代から長く続いてきました。また甕や壺は音の反響や共鳴作用も生じ、水琴窟や能舞台の床下の音響効果にも利用されました。

そんな信楽の土や焼き物に幼い頃から慣れ親しみ、「ものづくり」が好きな田村社長は、1987年、サラリーマンを辞めて故郷に戻り、独学で信楽焼を始めました。伝統工芸といえども時代に取り残されたように感じた信楽焼の新しい形を追求したい一心でした。旺盛な探求心は、制作の傍ら様々な実験を進めます。例えば、屋外に置いた甕の中で水をほとんど替えなくてもメダカが元気に育つこと、樹脂製に比べ陶器鉢は植物の生育がよいことなど、信楽の土が生き物に有益なことを実証しながら、その特性を生かした商品を次々と作り、完成したのがこの陶製スピーカーです。

球体全面から出る音は、再現性が高く、臨場感に溢れます。県による音響測定で音域の広さも確かめられました。信楽焼の素地の粗さが生きているのです。さらに陶器を透過することで柔らかく心地よい音質になるため、最近は寺院の法要や料亭のBGMにも使われているとのこと。温かみのある土味はインテリアとしても美しく、床に置くだけでなく、天井に吊るして降り注ぐ音を楽しんだり、防水加工を施し屋外で使うこともできます。

「型にはまらず感性のまま自力で創作してきた」と語る田村社長は、顧客の注文は全て受け入れ、新たなものへの挑戦はやみません。一貫して変わらないのは、信楽の土にこだわること。耐火性に優れ粘りの強い良質な土、他産地にはない緋色や自然釉、焦げによる素朴な風合い、茶人にも珍重された風情ある味わいを積極的に発信していきたいと望んでいます。特に、柄杓を使って釉薬を流し掛ける「杓掛け」技法は、浮世絵にみる荒波のような躍動感を意図的に表現する、同社ならではの強みです。

国の伝統的工芸品に指定され、日本六古窯の一つ、日本遺産である信楽焼。安価な量産品が出回る今こそ「新たなブランディングで若い方や海外の方の五感に訴えたい」と言います。古琵琶湖層に堆積したあらゆるものの恵みから成る信楽の土は、触れると不思議なエネルギーを感じ、心が落ち着きます。陶製スピーカーに耳を傾けると、信楽焼の奥深さと窯のように熱い同社の思いがじわりと響いてくるでしょう。

企業概要

しんにょ陶器株式会社

(甲賀市信楽町牧146)

http://shinnyo146.com/

信楽焼陶器製造および販売。

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