花まる77 いのうえ(大津市)

2025/6/27 毎日新聞

「救える食材を救いたい」。規格外や余剰の農水産物に工夫を凝らし、缶詰めや瓶詰め、レトルト食品に変えて食卓によみがえらせる“食の魔術師”が、株式会社いのうえ KANBE(カンビ―)工場責任者の井上修司さんです。

1949年、旅行需要が拡大する中、湖魚の佃煮加工や観光土産の販売で創業した同社は、時代の変遷とともに県内の観光・宿泊施設の淘汰などの影響を受け、売上が減少していました。コロナ禍を機に井上さんは“脱観光”にかじを切り、2023年に県初のOEM缶詰工場「KANBE」を増設。試作開発から製造、パッケージまでを一貫し、日常にも役立つ食の新事業を開始しました。もともと県農山漁村発イノベーションプランナー(旧・県6次産業化プランナー)として、地域資源を活用し、新価値を創出してきた知見も生かしています。農家や漁港から託されて完成した商品数は500以上、商品化率は約8割に上ります。

例えば、市場に出回らなかったB級品の彦根梨やモリヤマメロン、県産のイチゴは自社で一次加工してサイダーに。県内の大手スーパーで通年旬を味わえる人気商品となっています。井上さんの得意技は「硬い食材を煮炊きして柔らかくすること」。骨の硬い湖魚や未利用魚は幼児や高齢者にも安心なくらいほろほろに煮て缶詰に、また、うなぎのえら下にわずかに残るおいしい身も、う巻きにして缶詰にします。

近江牛はカレー、うどん、ポテトチップス、しぐれ煮、すき焼き、肉みそと汎用性が高いので、一頭買いして冷凍保存。焼き方に研究を重ねてとろとろに仕上げた焼き芋の缶詰めは、長期保存だけでなく栄養価にも優れるため、被災地で防災食としてリピート購入されています。他にも規格外の玉ねぎのスープ、余剰のあずきを使ったぜんざい、農家から届く割れたトマトのジュースなど、最近は県外からの依頼も増えています。

多様な商品を生み出す49㎡の工場は、日本に3台しかないイタリア製の真空回転釜、半自動缶シーマー、小型レトルト釜、スチームコンベクションオーブンなど、あらゆる素材に対応可能な機器が詰まった井上さんの研究開発拠点。大手製缶企業による全量検査で安全性も確保し、小ロットから受注できることが最大の強みです。

「LOCAL FISH CAN グランプリ2024」(日本財団主催)では地元高校生と、小骨が多く鮮度維持も難しいため廃棄されがちな琵琶湖のギンブナに、地元のじゃがいもと赤こんにゃくを加えた、イタリア家庭料理のマンテカートの缶詰を作り全国大会に出場。また、地元大学生とは定期的に工場内で新たな商品開発を模索するなど、若い世代の食への探究心も育くんでいます。

イナズマロックフェスでは、近江牛と近江米を使った毎年違うレトルトカレーを、西川貴教さんの似顔絵のパッケージで公式展開。観光事業と掛け合わせたインバウンド戦略も考案中で、アイデアは尽きません。

「困りごとがあれば何でも引き受ける。初代から続く信頼や人とのつながりをもっと広げ、地産地消でフードロスをなくしたい」。常に外を飛び回り、最新情報にアンテナを張り巡らせています。故郷と食をこよなく愛するKANBEの容器から、次はどんなアレンジが味わえるのか、封を開けるのが楽しみです。

企業概要

株式会社いのうえ

大津市丸の内町4-41

各種観光土産品(琵琶湖特産、和洋菓子、近江牛カレーなど)の加工販売および卸売業。
電話:077-522-7352
同社HPはこちら

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(公財)滋賀県産業支援プラザ 
情報企画課

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