かつて中山道鳥居本宿では、街道を行き交う人々の間で近江の文化や歴史が語られていただろう。そんなことを彷彿(ほうふつ)とさせる古い町並みの一角に、滋賀の伝統を発信しているサンライズ出版があります。県内中学の社会科の副読本としてなじみ深い「12歳から学ぶ滋賀県の歴史」は同社の代表的な書籍です。
1930年、初代の岩根豊秀さんは小さなアトリエで謄写印刷によるチラシやポスターの制作から創業しました。地域の文化事業にも深く関わり信頼を得る中で、新しいタイプオフセット印刷への切り替えが「出版」への転機となります。自費出版、官公庁や学校からの指名受注、現在も続くロングセラーである県内の文化情報誌「DUET」の企画出版と実績を重ね、93年に本格的な出版事業に参入しました。
近江の自然・歴史・文化全般に通じた一般教養書といわれる「淡海文庫」シリーズは、安曇川町(現高島市)在住だった民俗学者、橋本鉄男さんの提唱で各分野の研究者の協力とファンである会員の後押しを受け、70巻になる他県にも誇れる大作です。「滋賀はどの時代をとっても話せる歴史の宝庫。近くに潜(ひそ)んでいるのにまだ伝えられていないテーマはたくさんある」と二代目で娘の岩根順子代表取締役は100巻を目指します。「ふなずしの歴史」「街道でめぐる滋賀の歴史遺産」「近江の画人」など読書欲をそそる書籍を30年間で800冊余を出版し、出版物に関するさまざまな賞を受けた本も多数あります。
電子書籍への取り組みも始めていますが、本の匂いや手触り、ページをめくる音、書店や図書館で気になる本を手に取る楽しみ、読み聞かせの心地よさは、紙の本でしか味わうことができません。コロナ禍での自分史などの自費出版の高まりを鑑みると「残したいという気持ちを伝えられる紙の本は無くならない」と岩根社長は確信します。
社長によると読者の多くが県外の方とのこと。滋賀への関心の広まりを喜ぶ一方で、地元県民である私たちこそ身近にある貴重な書物から滋賀の魅力をもっと学ぶべきかもしれません。
「地域社会に役立つという創業者の精神を守りながら、先人が築いた多種多様な足跡を言葉で伝え、新しい価値を生み、次世代に継ぐのが私たちの使命です。時流に即した読者のニーズにも応えたい」と語る岩根社長。優れた本との出会いは人や社会の未来への礎となります。県で唯一、郷土図書を編み続けるサンライズ出版に、私たちは「本を読む」ことで感謝の意を示したいです。
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