「人」が「人」で磨かれるように「木」は「木」で磨くことができるのでは。そんな気付きから「常若(とこわか)施工」を生み出した株式会社グランドラインを紹介します。
当初、清掃業の技術職に就いた早川悟さんは、磨けば磨くほど喜ばれるこの仕事に惹かれ、さらに「美」を追求したいと独立、2007年にグランドラインを設立しました。主にビルメンテナンスを請け負いながら難易度の高い課題に挑戦してスキルを高め、「技術力」「信頼」「人脈」という財産を得ていきました。
競合の多い業界で差別化を模索する中で、滋賀には寺社仏閣が多いことに着目、木造建築のメンテナンスというニッチな分野を追求しはじめます。初めての大仕事は和歌山県の高野山別格本山總寺院。湿度が高く、これまでの主流「灰汁洗い(あくあらい)」という湿式工法がなじみません。
早川社長は逆転の発想で乾式工法に挑み、立命館大学の協力も得て研究を重ね、完成したのが「エアー鉋(かんな)」です。従来のサンドブラストを改良し、精製したおがくずや種子殻の粉体を吹き付けるノズルを備えた噴射機で、素材の風合いを失うことなく汚れを取り除くことができます。実績が評価され、比叡山延暦寺根本中堂や二条城(京都市)の東大手門など数々の国宝や重要文化財、さらにハウスメーカーを通じ木造住宅にまで市場が広がっています。
「エアー鉋は単なる道具で、何より大切なのは建物を丁寧に診断しメンテナンスの方針を決めること」と社長は言います。経験を基に材質や状態に合わせて植物性粉体の種類や圧力を変化させる。乾湿工法を巧みに使い分ける。長い保存のために自社の利益にならない提案をすることも。劣化が浅いうちに素材に最良の方法で補修し、常に若々しく保つ「常若施工」は、まさに人と機械の融合技術なのです。
早川社長はフットワーク軽く、各地の作業現場に駆け付けます。フランチャイズ契約による常若施工の技術集団は、国内35社と韓国に及び、宮大工、建具師、建築士などさまざまな本業も生かせる頼れるコミュニティです。
21年には中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれました。新たに異業種と連携し、地球環境に配慮した事業も始まります。古民家再生やSDGsが注目されていることも追い風です。常に一歩先をイメージするグランドラインの技術が世界に広まり、貴重な建築物や伝統を守る精神が後世につながることを願います。
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