ミキハウス社長 木村皓一

子供服のブランドとして常にトップメーカーとしての地位を保つ「ミキハウス」。名前を聞いただけで赤いロゴマークを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。また、最近では柔道の野村忠宏選手や卓球の福原愛選手など、オリンピック選手を育てる会社としても注目されています。若い人の夢を応援し、企業の社会貢献こそが利益に結びつくという木村社長の商売の神髄を語って頂きました。



売上や利益を追うのではなくて、社員が胸を張って名刺を出せるような会社にする。

 企業で大事なのは人材です。よい人材を確保し、育てなければ生き残りは難しい。私は創業当時、中小企業への助成金1200万円をすべて採用資金に使いました。特に女性の採用に力を入れました。女子学生が就職情報誌の採用記事を見ることで、「ミキハウスっていい服を作っているんだな」と思ってくれたら、自分の子どもが生まれた時や、親戚や友達に子どもができたお祝いに買ってくれるかも知れないと、いろんな効果を狙ってリクルートブックの女性版に掲載しました。すると、女性2人、男性3人、合計5人もの、思いもかけない採用者ができてしまったんです。年間1億もない売上げで、創業当時は妻と私と弟とパートの女性一人、そんな小さな会社ですからね。「こんな何もない小さな会社に入ってくれた。社員のためにも他に誇れることをしていかないといけない、立派な会社にしなければならない」という使命感が芽生えました。そこで考えたことは、売上や利益を追うのではなくて、社員が胸を張って名刺を出せるような会社にすること。「小さな会社でもうちはこんなことしているんやで」と自信を持てる会社、他社と違う何かがある会社にしたかった。それで、ボランティア活動とかスポーツなどにお金を使うようになります。ですから、我が社にはNBAを取った人や教科書に掲載されたような人もいます。自転車で世界を一周した人は、準備を入れて5年会社を休んでいますが、その間、昇給もボーナスもあります。戻ってきたら、人事部にいながら講演活動をしています。神戸の震災の時も、衣料品をトラックに積んで行きましたが、社員が商品一枚一枚にメッセージを書いて、それを配りに行ったんです。商品はいくらでも配れるけど、心のこもったメッセージがついているのはそんなにありません。当時中学生だった人が、「メッセージが入っていてとても嬉しかったので、将来はミキハウスに入ろうと決めた」と言って入社してきました。人の心を動かすのは決して企業の規模ではないということです。




ただ安いだけの商品ではなく、良い商品、付加価値のある商品を追求する。


 ボランティアを続けることは文化だと思っています。売上をあげて利益を上げることだけが仕事ではありません。企業が存在するということに社会的な意味合いがあるわけです。我々が社会でどういう役割を担っているのかということが大事なことであり、売上をあげて利益を稼ぐということだけであれば、簡単なことだと思います。私は小さい頃に小児マヒになり足が不自由でした。人の助けがなかったらどこにも行けませんでした。私は彦根の生まれですが、大阪の病院に通うようになり、住居も学校も大阪に移転します。その頃です。学校に行くのにご近所の人が連れて行ってくれるわけです。ですから、全てにおいて出来る人がやったらいいんだという考えはこの頃から私の中に生まれていたんだと思います。それと、人の心を読むということに非常に神経を使っていました。自分を助けるためには人の心を読まないと仕方がなかったんですね。感受性が強かったんです。例えば、遠足のときに担任の先生は、歩けない私には「図書室に本を探しに行ってくれる?」と言うんです。今になったら分かるんですが、でもその頃は腹が立ちました。嘘でいいから一緒に連れてってあげると言ってほしかったんですね。でも私は迷惑をかけるから行けない。友だちも誰も誘ってくれない。友達のリュックにバナナが入ってるんですよ。当時バナナといったら、遠足の時ぐらいしか食べられなかったので、本を読めと言われた私はものすごく心が痛みました。複雑な心の葛藤があるんです。口では「大丈夫」と言っていても、本当はしてほしい。そういうことが分かるんです。こうした人への洞察力は商品作りなどにも影響しているんだと思います。商品を買って頂いて「いいな」と思ってもらわないといけないわけですからね。だから、ただ安いだけの商品ではなく、良い商品、付加価値のある商品を追求しています。




どれだけ世の中の役に立つかが先。それが数字に表れるのであって、
先に売上とか利益とかは有り得ない。


 ミキハウスは子供服のブランドとして定着しました。それは、心をこめてきちんといいものを作ることによって、自然にできてくるものなんです。広告にお金をかけても、いい商品を作っていなければ駄目です。ソバ屋さんでも天ぷら屋さんも同じで、「あそこのコロッケは美味しい」というのがブランドなんです。どれだけ皆さんに喜んでいただけるかが売上げや利益に結びつくんです。私も子ども服を作ったときに、縫製がいい、着やすい、使って丈夫。何代でも使えることを付加価値に一般より高く販売しました。シューズも最初、久留米の研究所まで作りに行って、当時300円から700円の時代に、3500円のベビーシューズを売り出しましたが、毎年100万足以上売っています。いいものはいいんです。
 最近、よくベンチャー企業の方の名刺をいただきます。売上をあげて利益をあげて上場して、という話ですが、まずは、自分たちのすることが、どれだけ世の中の役に立つかが先ではないでしょうか。それが数字に表れるのであって、先に売上とか利益とかは有り得ないということを、是非、起業する人は心に留めてください。

●木村皓一プロフィール
1945年彦根市出身。関西大学経済学部在学中から野村證券でアルバイトを始め、中退し同社入社。父の経営する縫製会社を経て、1971年子ども服製造卸会社・三起産業を創業。1978年三起商行を設立。大阪府八尾の小さな個人商店から「ミキハウス」というブランド戦略で子供服のトップ企業へ。国内約200店鋪、海外11か国28店鋪を展開し、従業員約850人を抱えるミキハウスグループを一代で築き上げた。オリンピック選手を育成するスポーツ支援にも力を注ぎ、2000年にはITで子育て情報を提供する「ミキハウス子育て総研」を設立。ミキハウス子育て応援サイト『ゴーゴー育児ドットコム』www.55192.comでは育児相談を展開。


●売上高/362億9800万円(2003年8月期)
●社員数/約850名(男性180名 女性670名)
●本社/大阪、支社:東京、営業部:奈良
●国内直営店/約200店舗
●海外現地法人/フランス、イタリア
●海外駐在員事務所/アメリカ(ニューヨーク)
●海外展開店舗/11ヶ国28店舗