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 著名人が語る三方よし
三方よしAKINDOセミナー
講演会【要約】
於  大津プリンスホテル
「いまの経営のキーワードを考える」
講師 積水ハウス株式会社 代表取締役会長 奥井 功氏
 
選択と集中〜50年の経験から
 私は1931年のひつじ年生まれの年男です。1953年に学校を出て現在までの50年間のサラリーマン生活を通して感じた経験のひとつは"選択と集中"です。就職した積水化学で上司に反発して、まだ小さな関係会社の一つであった積水ハウスに移りました。その後親会社を追い抜くほどに成長しましたが、その時の選択は良かったと思っています。私の場合、上司への反発がその良い選択の契機となったことから、「悪い一期一会」も大切だと感じるとともに、大小などの見かけに惑わされないことも重要だと思っています。
大きな転機、敗戦から
 もう一つ私の経験として大きな転機は、人生観が180度変わってしまった"敗戦"です。何ものも信じられない心境でした。その心境は「変化」の激しい1990年代以降にも感じており、その時この時代に必要だと思ったことは、デカルトが「方法序説」の中で一番にあげている「自分自身が明らかに本当である、真であると認められない限り、どんなものも真実と認めてはいけない。即断と偏見を避けて、全く疑いを差し挟む余地のないほど明らかではっきりと自分の心に表れるもののほかは、何ものも判断に組み入れないこと」ということです。
「人権」「環境」「安全」は世間よし
 世界で一番の経営者と言われたゼネラル・エレクトリックのジャック・ウエルチさんは、経営のキーワードは「変化」と「スピード」だと言っています。私はそれに「安心」を加え、「変化」「スピード」「安心」だと考えています。また、もう一つ切り口を変えた企業にとってのキーワードは「人権」「環境」「安全」だと思います。「安全」と「安心」は少し違います。
 まず、人権には、同和問題、女性問題、外国人問題、子どもの人権、高齢者の人権、障害者の人権、アイヌの人々の人権、エイズ、ハンセン病などの感染者の人権、刑を終えて出所した人の人権とたくさんの人権問題がありますが、特に同和問題、女性問題、高齢者の問題は、企業として対処していく必要があろうかと思います。男女差別の問題では、セクハラや地位の差別問題が企業に対する訴訟問題として起こっています。ずいぶん前ですが、アメリカの三菱自動車などの例では、社員が起こしたセクハラに対して会社が何も対策を打たなかったということで問題にされました。
 次に、環境については、滋賀県は琵琶湖があり環境問題の先進県です。私ども住宅業界では建築廃材の捨て場の問題など、環境問題はこれからますます大きくなってきます。
 そして、安全問題は、企業レベルではガス爆発、火災、石油タンクの焼失事故など近年非常に事故が多くなっています。この原因はベテラン社員をリストラしたり、設備の老朽化を放置するなど、単なる目先のコストダウンのためであることが多く、そういう安全対策のコストを回避しようとするのは間違いです。一度事故が起こりますと経済的にも社会的にもその企業は大きなダメージを受けます。問題が起きないような対策を取るためにお金を使うのは、投資であるという視点が大事だと思います。安全対策を取るという経営姿勢がこれからは必要になってきます。
 私はこれら「人権」「環境」「安全」というのは、近江商人の「三方よし」(売り手よし 買い手よし 世間よし)の「世間よし」という言葉の中に込められていると感じています。
変えるもの、変わらないもの
 また、「変化」については、非常に厳しい時代です。この変化にあわせて企業も変化して生き残っていかねばなりません。例えば、アメリカなどでは証券市場のアナリストたちが企業に対する会計の要求を高めてきた結果が、時価会計システムになってきています。しかし、変化もやりすぎると駄目です。奈良の春日大社は約千年続いてきましたが、時代にあわせて生き残ってきたというのもありますが、全然変わらない部分も持っています。これを大事にしてきました。毎年十二月十七日には御祭りを昔のしきたりのまま行うなど、伝統というものを大事にしています。皆さんの会社も伝統、カルチャー、社風などは変えずに、そのときどきの事態に対応していくことが必要だと思います。積水ハウスでは、私の前の社長の時代から長期計画は持っていません。そのような計画は机上の空論に近くて、ドラッカー氏も言っているように、"人間というのは、将来を見通すことができない"と考えるからです。私はこういった社風は出来るだけ温存するよう努めました。
 "コンコルドの誤り"という言葉があります。イギリスとフランスが超音速ジェット機の共同開発を進めましたが、途中で採算があわないことに気づきました。しかし、今までたくさんお金を使ったからとさらに投資をして完成させました。それで結局失敗です。"コンコルドの誤り"とは、たくさんの金額を投資すれば、それにこだわって身動きできなくなるという意味です。皆さんも判断に迷われるような場合には、こういう言葉もあることを思い出して頂きたいと思います。
変化の時代に対応
 また、変化は不可避です。イギリスのランカシャーは、十九世紀に紡績業が起こりましたが、日本や新興国が紡績産業を全部取ってしまいました。それと同じことが今、日本と中国の間で起こっています。歴史は繰り返します。日本は高い付加価値の技術力のある製造を心がけ、もっと磨いていかなければいけません。ただ、改革は大きなことを望んではいけません。啓示を受けたような大きな飛躍が、突然ビジネスの成功をもたらすということはまれです。持続的な成功は適切な事柄に絶えず目を向け、毎日地味で小さな改善を積み重ねることによってもたらされます。ときには、小さな一歩が驚異的な大飛躍となることもあります。
 「変化」への対応は"人間万事塞翁が馬"だと思います。幸いが災いになったりその逆になったり、変化してもくよくよしないという心がけが必要ではないかと思います。
満点よりスピーディーな合格点
 それから「スピード」の問題です。この社会には百点は存在しません。百点を狙わずに七十点、八十点でいいからスピーディーに仕事をやってほしい。ナポレオンの軍隊が強かったのも、戦場へ行くスピードが速かったのがあの連戦連勝の原因といわれています。
 もう一つのキーワードは「安心」です。安心とは個人の心理状態の問題です。一部の経営者などは、危機意識を持たせて不安にして業績を上げようという傾向がありますが、短期的に成功はしても長期的には間違った方法だと思います。やはり人は安心して暮らしたいというのが基本です。人の集団である企業体にとっては、これが基本的な態度だと思います。また、社会には「血族共同体」という血族で結ばれているものと「利益共同体」という他人同士が利益で集まっている集団があります。人間の集団として一番強固な集合体は血族集合体、つまり家族です。「家族経営」というと古い言葉ですが、相互に信頼し合って仕事をすることが、人間の効率を上げる一番の方法ではないかと思います。
考える自己が大切
 私が話したことをそのまま信じずに皆さんがいいと思ったことをやってもらうというのが、今日申し上げた私のデカルトの教訓です。最後に「韓非子」の"戦戦慄慄(せんせんりつりつ)日に一日を慎め。まことにその道を慎めば天下もたもつべし"恐れおののいて日々にその日を慎め。そのやり方を慎重にしていけば天下を保つこともできるだろう、という言葉を紹介します。私もそういう心構えでやっていきたいと思っています。
 
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