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昭和4年(1929年)客室数6室、おごと温泉で初の旅館として営業を開始。時代の変化にあわせて増改築を繰り返しながら、旅館の質とともに経営の質を高めてきた。最澄の言葉『忘己利他』を理念として、お客様の立場に立ったサービスを展開している。
株式会社湯元館 
代表取締役 針谷 了さん 


 昭和26年(1951年)12月に私の父が実質上の代表者となってから増改築を繰り返し、昭和39年(1964年)には株式会社を設立して「株式会社湯元館」となりました。しかし経営は非常に不安定で、7年間に4回も倒産の危機に陥りました。1回目の危機の時、私は大学生になったばかりでしたが、大学にはほとんど行くことができず、旅行会社へ営業に駆け回る毎日でした。
 1回目の危機は昭和44年(1969年)で、前年の設備投資で売上の3倍の借金を抱えていましたが、すでに翌年の万博に向けて予約が入っていたことから、銀行が助けてくれました。当時の宿泊料は2000円でしたが、万博期間中は4000円から5000円に相場が上がりました。それでも180日間、満室になり、おかげで危機を脱することができました。
 ところが、万博が終わるとパタッと客足が途絶え、翌年春にはまた資金繰りが苦しくなりました。土地を売却してしのぎましたが、その翌年には3回目の危機。とにかく、根本的に経営ができていませんでした。しかし、またその年の夏あたりから、突然予約が入り出しました。原因はソープランドです。週刊誌などに紹介されて、ソープランド目当ての男性客が次々訪れるようになり、3年は続きましたが、ブームが去るとまた危機です。ソープランドの影響で男性客は増えましたが、女性や修学旅行客から敬遠されるようになっていました。この時、私は25歳で専務でしたが、この4回目の危機で実質、経営を任されるようになりました。


 大学時代の5年間は、営業であちこちを歩き回っていました。そこで、どうすればお客様に来ていただけるのか、旅行会社の人にいろいろ教えて頂きました。経営を任されると、さっそくそれを実践しました。大ヒットしたのは、昭和52年の1〜3月にした企画です。4800円、12品、5大サービス付という単純な企画ですが、それが前年対比3倍になりました。当時、関西の料理界では8品が常識でしたが、関東や中京ではそれより品数の多い料理を出す旅館がたくさんありました。そこで、湯元館でもそれをやってみようと。その時代に求められていたのは質より量でした。高度成長の時代ですから、お客さまには大好評でした。
 こうした企画のヒットは、雄琴の同業者に大変評判になりました。他の旅館が「湯元館にはバスで毎日ガンガンお客が入っている。その理由は料理らしい。湯元館の調理長と市場で一緒になるだろうから、その理由を聞いてこい」といった具合です。そうなると、最初は反発していた当時の調理長も自信を持つことができ、私に協力的になっていきました。そして、その勢いに乗り、鯛一匹付やうなぎ一匹付など、いろいろな企画を考案しました。  また、このとき「企業は人だ」という言葉に出会い、早速採用活動を始めました。このとき採用した内の一人は、私の経営上の有力なパートナーとなりました。

 平成元年(1989年)に、大きく方向を転換して“高質化”を戦略として掲げました。ちょうどバブル景気の時代です。何度も危機を乗り越えてきた中で、一生懸命に努力することを覚えましたが、一生懸命にやっていると、時代の変化が感じ取れました。これからは質を高めないといけないということで、平成元年に急速に舵を切り、建物も、料理も全部変えていきました。それ以前から、社員教育にも力を入れ、社内ルールも統一していきました。例えば「焚き合わせはどこにつけるか」ということ一つにしても、これまでは人によってバラバラでした。昔は女中頭というしっかりした人がいて、徹底的に監督されていたのですが、観光のお客様が増えてくると、そのへんが疎かになっていました。父の代には20数名だった従業員も70人ぐらいに増えていましたので、社員教育をしっかりして、ルールを徹底していきました。
 狙いとする客層も、徐々に代わっていきました。第三期工事までは、団体グループと女性、個人客の両構えで企画を立てていたんですが、平成11年あたりからは、女性、個人のお客様に向けたサービスに一本化し、コンセプトを明確にしていきました。この年に全25部屋、木のお風呂がついて、びわ湖が見える「月心亭」を新設しましたが、これはまさに“高質化”を狙って作ったものです。ちょうどバブル崩壊後の金融不況の頃で、西館と同じ建築単価で、グレードの高いものができました。宿泊料は2000円高いだけですが、これが非常に人気になり、私自身もふくめて、社内全体が「お客様にどんどん来ていただけるんだ」という雰囲気になっていきました。

  “高質化”が成功して勢いが出てきた時、ここできちんと引き締めておかないと組織が良くなっていかないと思い、ISO14001の取得に挑戦することにしました。よくよく考えてみれば、温泉というのは自然の恵みだし、琵琶湖の環境があっての湯元館です。ですから環境への取り組みは社会的責任としてやらないと、将来「何をやっていたんだ」と言われることになるかもしれない。そうした社会的な責任について社員に分かってほしいという思いもあり、かなりハードルは高かったのですが、ISO14001に取り組むことにしました。実は、ISO14001の取得は旅館業では初でした。ですから、マニュアルがありません。そこで日立製作所が公開されていたマニュアルの、製造業の部分をサービス業に置き換えながら、独自のマニュアルを作成しました。
 例えば浴衣ですが、従来は着てみないとサイズが合うかどうか分からなかったのを、身長別に分けて収納するようにしました。特大、大、中、小と引き出しに分け、特大が身長180cm以上、大が170から180cm、中が160から170cm、小が150cmからと表示しました。すると、自分の身長が分からない方はおられないので、お客様も一度ですぐ合う浴衣を着られるし、余分な洗濯物も少なくなります。このように、サービスを見直して改善をしていきました。このことを通して、組織が一段高いレベルに上がったと思います。担当者だけでなく、社員全員がそれを実感しています。
 また、お客様アンケートというのはどこの旅館でもやっていますが、私どもはそれをすべて点数化していますし、アンケートでいただいたお客様のコメントは、パソコンに入力して全社員に配布しています。あわせて、インターネットのホームページでも公開しています。なぜかというと、上司が言ってもなかなか聞かないことでも、お客様からのおしかりの言葉には、素直に従うことができるからです。
 湯元館は名前の通り、湯の元ですから大浴場が4個所あります。そこに全部タオルとバスタオルを備え付けています。例えば、お客様がお茶を飲んでいて「お風呂に行こうか」となったとき、タオルとバスタオルを取りに、わざわざ部屋に戻るのは面倒です。それに、もう一度使ったタオルですから濡れています。だから、お風呂に入りたくなったらいつでも、浴衣一つで行けばいいようにしました。
 今、私どもが経営理念としているのは、最澄の“忘己利他”という言葉です。読んで字の通り、己を忘れて他を利する、という意味です。タオルの話は、その一例です。コストはかかりますが、お客様の立場に立ったらそうなるということです。
 私は“利益はご褒美”という考え方をしています。ご褒美をもらうには一生懸命やる必要はあるけど、ただ闇雲にやればいいというわけではない。やはりお客様に気に入っていただけるようにやらないと、ご褒美はいただけない。こちらの自己満足ではだめです。だから、お客様の立場に立って考えて、一生懸命やる。利益というのはあくまでその結果であって、目標でもないし目的でもありません。利益を目的にすると、企業の社会性はゼロになってしまいます。これは「三方よし」の中の一つ「世間よし」につながる。この考え方が一番大切であるという思いを強く持って、現在も旅館の経営に邁進しております。
会社データ

株式会社湯元館

代表者/代表取締役 針谷 了

本社/滋賀県大津市苗鹿2丁目30-7

   TEL.077-579-1111  FAX.077-578-1082
   

設立/昭和39年(1964年)

事業内容/旅館業
http://www.yumotokan.co.jp/


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