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1854年(安政元年)、彦根藩から命を受けて酒造業を営むことになった酒蔵「岡村本家」。
彦根城が金亀(こんき)城と呼ばれたことから銘柄は「金亀(キンカメ)」。今も古きよき時代の酒造りの手法を残すとともに、より地域と結びついた幅広い商いと、個性ある酒造りをめざしている。
株式会社岡村本家
代表取締役社長 岡村太さん 


 豊郷町吉田という地域は、昔から米の産地でもあり、豊かな水に恵まれたところです。当蔵は昔から地元中心に酒を販売していましたが、先々代の頃は灘や満州にも酒蔵を持つほど勢いがあったそうです。昭和30年代に先々代が亡くなり、それ以降は、日本酒の人気が落ちるとともに売上げも減少傾向。大手酒蔵への桶売りなどを経て、親交のある関東の酒販店を通じての販売が中心となっていました。
 地元での販売は1割程度。地元の酒蔵はみんな同じ悩みを持っていたと思うのですが、やはりこのままではいけないという思いがずっとありました。小さな酒蔵で、旧来からの造り方での酒造りをしている以上は、大手と同じような酒を造るのではなく、また売り方を変えていかないといけない。特徴のある酒が注目されてきたこともありますが、個性ある酒造りをしよう、昔のように、地元で愛されることに力を入れようと思いました。
  もう一つ、この吉田は近江商人ゆかりの土地で、蔵のある古い家が多いのですが、そのうちの1割、20軒ほどは空き家です。これを何とかできないかとも思いました。当蔵の酒だけではなく、地域もひっくるめた酒造りとまちづくりをしていこうと、そして故郷吉田を、豊郷を知ってもらいたいと考えたのです。


 1998年から、酒蔵の見学をしてもらおうと、蔵の一部を改装し「蔵しっく館」と名付けて古い酒蔵道具を展示しています。また、空いたスペースをホールとして解放。コンサートや集会などに活用してもらえるようにしました。 りっぱな蔵のある家が古い空き家になり、他府県に転出した人が戻らないとどうなるんだろう。この古い町並みを、自分たちが残して行かないといけないという気持ちから、2000年には、地元の有志と「とよさとまちづくり委員会」を立ち上げました。
 2001年には、空き家となっていた当蔵所有の、築100年以上の新家を改装して、近江の田舎料理を味わえる「遊亀亭(ゆうきてい)」をオープン。酒蔵見学でこの地に来て下さった人たちの、郷土料理を食べるところがあればいいのに、という声があったからで、これも、地元の女性の方に協力してもらって実現しました。
 酒造りは杜氏(とうじ)が中心となって行います。当蔵も長く石川県から能登杜氏を招いて酒造りを行ってきましたが、技術を学んで、7年前からは社員の酒造りを行うようにしました。同じように、原料である酒米も4年前から、地元の農家がつくる「吉田営農組合」と協力して、地元の米、近江の「環境こだわり米」の「玉栄」を使っています。まさに地産地消です。
13代目となる岡村博之専務。
 当蔵は600石(1升ビンが100本で1石)ほどの生産。大手酒蔵メーカーは35万石ぐらいあるので、機械化されたところに量では勝てません。でも、この蔵だからできる酒造りをすることで、個性的な酒ができると思っています。例えば、木製の槽に醪(もろみ)を詰めた酒袋を幾つも並べて絞るというのも今では少ない製法です。大きな蔵では、機械で絞るので半日で9割が絞れますが、槽では、酒袋を並べ圧力をかけて1日。あくる日に並べ替えてまた圧力をかけるというように、2日かけてゆっくりと絞ります。当蔵はこの方法でしか絞っていません。だからウチの酒かすはお酒が多く残ります。だから、酒かすもおいしいと言われますね。個性を出していくということでは、昔ながらの製法を残していて良かったなと思っています。
 数年前から、春に新酒を味わってもらおうと「酒蔵開き」を開催しています。雨にもかかわらず、今年も300人の人を迎えました。開催にあたっては、地域の人々はもちろん、「とよさとまちづくり委員会」のメンバーや、「よしだ営農組合」の方々、滋賀県立大学の学生さん、友人たちなど、多くの人に協力いただきました。地元の水、地元の米を使って、昔ながらにつくる地酒、多くの人に知っていただきたいし、是非、この豊郷に来ていただいきたいです。
 地元には、曾祖父の話をしてくれる人々がいます。いちばん華やかな時代の当主でしたが、「こんな時代はいつまでも続かない、いつか苦しい時期もくるだろう。そのためには、『人を残すこと』が大切」という言葉が残っています。今は、その苦しい時なのかもわかりませんが、農家の人たちや地域に暮らす人たちとお互いに協力し合うことは、酒蔵を継続していく上でも、地域にとっても必要なことだと実感しています。
 昔は、彦根まで大八車に乗せて「金亀」を売りに行ったらしいです。ごひいきのお客さんが持っている陶器の酒びんに、それぞれ量り売りしていました。今は、情報が豊かな時代になり、酒蔵見学も飲める人ばかりではなく、日本酒に興味のある人や、建物に興味のある人など多様な人が訪れて下さいます。のどかな景色や古い町並み、そこにある昔ながらの酒造り、歴史ある豊郷の町の良さを知っていただきたいです。
 空き家の活用として、「とよさとまちづくり委員会」の事務局を置いたのですが、滋賀県立大学の学生さんたちも活動に参加してくれて、イベントなどでも協力してもらっています。彦根の湧水を使った日本酒を造ったり、和菓子店と連携して「日本酒ケーキ」が生まれたり、人との出会いがあって様々な商品を作ることができました。2004年からは、縁があって、大阪に郷土料理と近江の酒を味わえる居酒屋「遊亀」をオープン。当蔵の酒だけではなく、近江の地酒をいろいろと置かせてもらっています。大阪や京阪神の方に、滋賀にもおいしい日本酒があることを知ってもらいたいですね。
 ゆっくりですが、これからも滋賀、豊郷を知ってもらえるように、ここから情報発信していければと思っています。
会社データ

株式会社岡村本家 (平成18年3月取材)

代表者/代表取締役社長 岡村太

本社/滋賀県犬上郡豊郷町吉田100

   TEL.0749-35-2538  FAX.0749-35-3500
   

設立/安政元年(1854年)

事業内容/日本酒の醸造・販売


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