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昭和47年、山あいの町永源寺町で池田夫妻は酪農経営をスタート。平成9年にジェラートの加工・直売、平成15年に農家レストランを手掛け、週末には千人が訪れる人気店に。夫婦二人三脚で農と食の大切さを発信する、生産者と消費者をつなぐ場づくりに奮闘中。
池田牧場
(右)代表取締役 池田義昭さん 
(左)専務取締役 池田喜久子さん  


 昭和45年大学紛争でUターンし、家業の酪農専業農家を継ぎました。物心ついた頃から羊や鶏が身近で、羊の毛刈りでセーターを作る等自給自足に近い生活で、朝晩手伝いしていたので好きも嫌いもありませんでした。昭和47年中学生の同級生だった喜久子と結婚。彼女も農家育ちで、高校卒業後銀行勤めをするものの、家族との団欒が犠牲になるサラリーマン生活に疑問を感じていたと言います。
  成牛40頭の酪農経営をスタート。順調な滑り出しでしたが、昭和57年牛乳の生産調整により、余った牛乳は捨てるしか無い農業者として最も辛い日々が続き、収入も激減。子供の進学費の足しにと野菜やハーブ栽培に取り組み、初めて「直売」で消費者とふれあう楽しさに触れ、生産者の思いを消費者に伝えていけたらという夢が膨らみました。また、「こんなおいしい牛乳をどうして自分で売らないの?」という知人の言葉に専務の喜久子は、牛乳で人とつながる仕事がしたいと言うようになりました。しかし、小規模生産者は大手メーカーの販売メカニズムに組み込まれ、自家販売が出来ないようになっていたので、私は当時組合長もしていましたし、最初は耳を貸しませんでした。しかし、あまり真剣に訴えるので突き動かされ、メーカーと掛け合ったところ、エールを贈られる形で直販への道を拓くことに成功したのです。


 牛乳で何を加工すべきか悩んでいた時、ニューヨークに留学中の息子が「アメリカではローファットのイタリアンジェラートしか流行っていない」と知らせてくれました。当時、日本では高級アイスクリームが大ブームでしたが、粘っこさが嫌いで自然な味にも程遠く思われ、「健康志向はきっとそのうち日本でも流行る」と信じ、専務は47歳で単身イタリアに飛び、味や販売方法、スローフードの考え方を学んできました。
  帰国後、「すぐ食べられる」「品揃えが豊富」「見た目がきれい」の3つの条件をクリアするため、お菓子教室の先生と池田牧場の味づくりに専念。知り合いの和菓子屋さんやレストランのシェフにも助けられながら、素材は知り合いに旬の野菜を届けてもらうなど、できるだけ安心・安全や地産地消にこだわりました。平成9年、牛舎の横に関西初のジェラート店をオープン。周囲からはメイン通りに面していないとか、牛舎の匂いがすると心配する声が大半でしたが、匂いも含めて味わってほしいという信念から決断。予想は大当たりで、とくに宣伝をしたわけでもないのに口コミや雑誌に掲載され人気が広がり、多い日には1日千人を越えるようになりました。ジェラートの生産・加工・直売を始めて二年で年商が二倍になり、専務は農業者の女性起業家として各地の講演会にも呼ばれるようになりました。

  平成15年の秋、お客さんの車で集落の道が混雑するようになったので、大字和南生産森林組合の山間部を借り受け、新店舗の移転と農家レストラン「香想庵」をオープンし、バリアフリートイレも完備。「田舎の親戚」をコンセプトに、専務の実家である築160年の葛屋葺の民家を移築。新築の方が安くできると言われましたが、食と農を発信する場として、「160年という重みのある柱の色は絶対に作り出せません。スローな雰囲気で食の大切さを見直してほしい」と、本物の建物にこだわりたかったのです。
  永源寺の新しい名物に、あまり食べる習慣のなかった鹿肉をセレクト。価格設定は年に1回しか食べない高級料理でなく、春夏秋冬来てもらえるリーズナブル設定にしたところ、今や岩魚を追い越す人気料理となりました。十年前には見なかった鹿が激増しているのは、環境破壊の警鐘と心配しています。今、増えすぎて有害獣となってしまった鹿と人間の共存を考えなければと思います。永源寺の里山を歩けば、鹿に出くわすのが日常で、子ども達に「かわいそう」という気持ちがわけば、食べ物に対する感謝の念が育てられるのではないでしょうか。農業者として、人間が多くの動植物から命をもらって生きていることを知ってもらう食育の場を提供したいと考えています。
 最近では「イケボク」の名で親しまれるようになりました。池田牧場のジェラートは毎朝搾り立ての牧場の牛乳を75%以上使用し、でき立てを出荷しています。着色料・香料・保存料などの添加物は一切使用していません。昔の民家を甦らせたのは、薪でご飯を炊く経験をしたことのない子ども達に、おくどさんの火を体感してほしいという気持ちからです。「事を始める時、多くの人が手伝いにきてくれました。ものづくりや味作りにみんなが自ら楽しんでいてくれたので、良いものができたのだと思います」。店の壁に掲げられている「香想」 は、二人の支えであり原点です。香想とは、食べ物の香りだけでなく、 自然の香り、 空気の香り…そして人の香りを大切にしたいという想いを込めています。開店以来、地元中心にスタッフを雇用し、常に新しい味を追求しコミュニケーションを大切に、リピーター獲得を心掛けています。永源寺の景色や空気も味の一部と考え、私たちの一番のお気に入りの場所に遠方からお客さんが来て、喜んで帰って下さることが何より嬉しく思います。私は人件費を削るとか材料費を削るという考え方ができないので商売人ではないかも知れません。わざわざ来て下さるお客さんだから、料理一つにも手間暇かけて手作りすることにこだわり、従業員一人ひとりが自然体でお客さんとつながることを大切にしています。
  三方よしの考え方からは、酪農生産者というのは出荷した時点で完結し、消費者とつながることがありません。一方よしなのです。ジェラートの生産・販売を通じて初めて、三方よしの理念を実感するようになりました。同時に、自分の夢を一つずつカタチにしてくことの楽しみを知りました。農家だけでなく異業種の人との付き合いも増え、酪農を違った目で見ることができるようにもなりました。本業の酪農経営では、成牛50頭と子牛30頭の牧場を運営し、自動給餌機やロールベールラップサイレージなど機械の導入で省力化を図っています。
  最近では、非農家の酪農志望の若者を雇用して人材育成に努め、家族経営に頼らない酪農の新しい方向性を探っています。また、廃棄物の牛糞を堆肥化してセルフ販売を仕掛け、ガーデニング愛好家に評判を呼ぶ人気エコ商品になりました。二人三脚で酪農部門と加工販売部門、レストラン部門を切り盛りしながら、新たな酪農商品の開発にも取り組んでいます。私は子どもの時から山や川で遊ぶのが大好きだったので、本物志向の酪農や森林体験で大人になっても忘れることの無いエコツーリズムの企画を構想中です。今後も、農村と都会をつなぐ発進基地としてチャレンジを続けたいと思います。
会社データ

有限会社池田牧場 (平成18年3月取材)

代表者/代表取締役社長 池田義昭

本社/滋賀県東近江市和南町2191

   TEL.0748-27-1600 FAX.0748-27-1626
   

設立/昭和31年(1956年)

事業内容/イタリアンジェラート製造販売・農家レストラン
http://www.t-craft.com/ikeda/


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